小さな頃から、生地の感触やふくらむ様子、こんがりと焼けた色、焼きあがる香り――“パン”というものが大好きでした。

大学時代には自宅でパンを焼いたり、旅行先では必ずパン屋を巡るようになりました。

フランスを訪れたとき、バゲットを片手に歩く人々や、荷台いっぱいにバゲットを積んだ配達車、鉄のラックにずらりと並ぶ無骨なパンたちを見て、「日本にもこんなパン屋があったら……」と密かに憧れを抱きました。パン屋を訪ねては、パンや道具のスケッチをしていたことを覚えています。

また、ドイツの小さな町に滞在した際、宿の前に小さなパン屋さんがありました。朝、窓の外を見ると、パン用のかごを抱えて順番を待つ人たちの列ができています。

「一日の始まりはパン屋なんだ!」

そんな発見にわくわくしたことを、今でもよく覚えています。

パンをカットする台や、パンをしまっておく木製のパン箱など、パンを取り巻くさまざまな道具があることを知り、そのどれもが素敵に映りました。

大学卒業後は、パン屋で販売やサンドイッチづくりを担当しました。職人さんの仕事を間近で見ながら、自分はパン職人には向かないなと思う一方で、「パン職人以外にも、パンに関わる仕事があるのではないか」と考えるようになりました。

そんな頃、シェフに声をかけていただき、国分寺のパン屋キィニョンの立ち上げに参加することになりました。

その頃、「私の描く“キィニョン”と実在するパン屋キィニョンがシンクロしたら面白い」と思い、架空のキィニョンの絵や物語を描き始めました。

ロゴや内装、外装、ユニフォームづくりなど、パンをつくる以外のお店づくりにも携わらせていただきました。

当時の私は何もかもが未経験でしたが、「好きにやっていいよ」と寛大に見守ってくださったシェフや周りの皆さんには、今でも感謝しています。

お店の設計、POP、パッケージデザイン、ディスプレイ、販売、スタッフ教育、商品開発、販売計画――。パンをつくること以外にも、本当にたくさんの経験をさせていただきました。

2018年、16年間お世話になったお店を退職しました。

現在は夫と共にシロ.で服を作る毎日です。

その傍ら、デザインやイラストの仕事をしています。

ここでは、シロ.の仕事から少しはみ出した個人的な活動や制作物をご紹介していきます。

小さな頃から大好きだったものは、今も変わらず興味の中心にあります。

暮らしを包む空間や家、そしてその素材。
パンという食べものの奥深さ。
織られたり編まれたりして生まれる布。

そうしたものに関わりながら、ひとつずつ形にしていきたいと思っています。

inocao(原田香織)